柴田元幸さんの翻訳で日本でも知られることになった短編の名手スティーブン・ミルハウザー。『イン・ザ・ペニー・アーケード』は「アメリカの新しい文学」シリーズの1冊として白水社から出版されました。
「ペニーアーケード」とは1セント硬貨で遊べるアメリカの遊園地などにあったゲームセンターのこと。ゲームセンターといっても、そこには時代によってキネトスコープからジュークボックス、ピンボールまで、コインを入れて動く機械が並んでいました。安っぽくて郷愁を誘うんだけれど、ワクワクしてなにか不思議なこと(トム・ハンクスの『ビッグ』みたいな・・・)が起こりそうな人工的な空間。
ミルハウザーのこの本にも様々な仕掛けの7篇の短編小説が並んでいます。その中でも圧倒的に魅力的だったのは、主人公の名前をタイトルに冠した「アウグスト・エッシェンブルグ」です。
④アウグスト少年はプライゼンダンツ百貨店のショーウィンドゥのための自動人形を作ります。自分のやるべき芸術に集中できる奇妙に充実した日々が過ぎていきました。
⑤しかし、ライバルの百貨店が大衆受けする猥雑な香りのする自動人形を飾り始め、たちまち一番の人だかりを集めるようになります。自分の芸術が認められずアウグストは失意の中故郷へ帰ります。
⑧アウグストの天才を誰よりも認めながらも複雑な思いから彼を裏切ることになるハウゼンシュタイン。裏切りを知り去っていくアウグストに「君の芸術を僕ほど知りつくしている人間は他にいないんだぜ。誰一人として。」と訴えかけます。
⑨自分の芸術は時代遅れで世界に必要とされていない・・・とからくり人形の入ったスーツケースを抱えてアウグストは旅立ちます。夢破れたその姿は不思議にすがすがしいのでした。
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