『コレクション　アンファンス』は山下陽子によるカードコレクションです。

銅版画制作の過程で何枚もの紙を刷る中、インクのかすれや独特の表情に惹かれたものを選び、そこにスートや星のモチーフを組み合わせて手のひらサイズの小さなカードが生まれました。スートや星のモチーフは一つ一つ古紙を切り取り、その上から和紙を貼り白を塗り重ねています。

『コレクション　アンファンス』では、スペード、ハート、ダイヤ、クラブの４つのスートになぞらえて、それぞれ１３枚のカードからなる４つのテーマを順次発表してまいりました。最後のテーマ『永遠の風景』をもって５２枚の全てのカードが揃いました。全てのカードが１点づつしか存在しないオリジナルのコラージュ作品で、１枚１枚異なる美しいカードはコレクションの愉しみも感じさせてくれます。ぜひこの機会に『幼年時代の香り』から『飛翔の夢』『存在以前の存在』そして『永遠の風景』まで合わせてご覧になってみてください。長引くコロナ禍の重い空気の中、このオンライン展示で少しでも軽やかな風を感じていただければ幸いです。

『白のラプソディ』展から始まった『コレクション　アンファンス』の長い旅、山下陽子さんはもとより多くのお客様と一緒に過ごせたこと感謝しております。

ありがとうございました。

2021.10.16　とらんぷ堂書店　宮下桃子

４つのスートの最後は「窓」です。

一つ一つの窓の向こうには、そうであり得たかもしれない世界が開けています。

それは実際にあった景色ではなく、孤独な夢想の内奥にある想像された生、輪郭のぼやけた静かな幼少時代の風景です。

霧や靄につつまれ、遠くで星のまたたく音だけが響いているような寂しくなつかしい場所。

そこではスートだけが具体的な形を持ち、わたしたちが窓の外へ思いを飛翔させるのを待っています。

作品に合わせてホワイトの紙とミルキーホワイトの紙を使用しています。

それぞれのコラージュカードに短い詩をそえて、特製のラベル付き封筒に入れてお届けします。

ひとびとが思い出す過去のなつかしさ　　時間の霧をとおして。　記憶の霧をとおして。　ジョルジュ・ロダンバッハ　『夢想の詩学』G・バシュラールより

４つのスートの３つ目は「鉱石」です。

銅版画作品のかすれが鉱石の硬質な質感や透明感を表しています。堅牢な石は微光を放ち、その淡いきらめきの奥には霧につつまれた泉、嵐や白夜の風景が見えます。

静かでほの暗い存在以前の源泉への夢想は、通りすぎ、変質し、消滅していくわたしたちの時間に夢幻的な安息をあたえてくれます。

そして鉱石の中でたわむれ、浮かび上がるスートや星たちは悠久の時間を存在してきた希望のようです。

作品に合わせてホワイトの紙とミルキーホワイトの紙を使用しています。

それぞれのコラージュカードに短い詩をそえて、特製のラベル付き封筒に入れてお届けします。

わたしたちの歳月は鉱物たちの想念ではあるまいか。　エドモン・ヴァンデルカマン　『夢想の詩学』G・バシュラールより

４つのスートの２つ目は「飛翔の夢」です。

白い星の輝く空を身にまとった青い鳥は、その軽やかで優しい羽ばたきにより物質的な地上から飛び立っていきます。

未知であり、同時になつかしい風景をうつしだす鳥の姿は、はるか遠くへと夢想を連れ去ります。

四季それぞれの空、風、星々、木々、宇宙をうつしだす孤独な飛翔は、ハートやスペードのスートの散りばめられた幸福な旅でもあります。

作品に合わせてホワイトの紙とミルキーホワイトの紙を使用しています。

それぞれのコラージュカードに短い詩をそえて、特製のラベル付き封筒に入れてお届けします。

４つのスートの１つ目は「香り」です。

過去に刷られた銅版画作品の１枚１枚のかすれが夜明けの光になり、夜空の星のまたたきになります。

遠い異国の静かに澄み切った夜となり、森のはじまりにたちこめる朝靄となり、あたたかい部屋の窓から眺めるしんしんと降りつもる雪となります。

夜明けの匂い、一面真っ白な雪景色や月と星々の光で明るい夜の空気など、子供の頃に確かに感じていた記憶が調合され、香水瓶の中に閉じ込められています。

ⅠからⅥの作品にはホワイトの紙を、そしてⅦからⅩⅢの作品にはミルキーホワイトの紙を使用しています。

それぞれのコラージュカードに短い詩をそえて、特製のラベル付き封筒に入れてお届けします。

わたしたちの幼少時代はビロードの匂いを不朽のものにする。　イブ・コソン　『夢想の詩学』G・バシュラールより